●換装用ボディ現る!
 旧い自動車との付き合い方は色々あります。たとえば私のSJ20Fは永遠に完成しないであろう発展途上車ですし、菊千代は理想を求めた改造車、ZERO-8はオーナーの許す範囲のコストで出来る限り修復した車です。現在作業にあたっているのはインチキレストア車になりますが、どれも共通しているのは元が極めてボロいということです。これを綺麗に仕上げてゆくのが至上の愉しみですが、作業中にいつも引っ掛かる事があります。

 「折角生き残った純正の塗装が勿体無い」

 塗装は、やろうと思えばいつでも出来ますが、純正の塗装は全塗装により永久に葬られます。当時の塗膜はいくらカネを積んでも手に入らない究極の塗装と言っても過言ではないでしょう。それがたとえピカピカの状態でなくとも、道具として長年使われてきた歴史を残せるのであれば、残したい。幸い、これまで取り組んできた車両は全塗装も致し方ないコンディションでありましたが、いつかは、未再生原型のピカピカとまではいかずとも、味のある、やつれたオリジナルペイントを味わいたい。

 しかし近年、SJ10やSJ20で状態の良いものは例えインチキレストア車であっても値が張ります。完璧レストア車や未再生原型車ともなれば、もはや手は出ません。仮にそんなものが見つかってしまっては、それこそグサボロボディの百鬼丸は捨ててサッサと乗り換えてしまうのが現実的です。

 さらには、探しているのがジムニーエイト(SJ10も場合によっては可)のタレ目のバン。オリジナルペイントを多く残した素ノーマル車で、できれば情の移らない書類なしで、運ぶのが楽な近畿地方での発見が理想である。

 で、やっぱり無いわけですが、探し始めて5年です。



 

 ありました。

 それも大阪のド真ん中の小さな整備工場の屋根下に、荷物に埋もれて時を止めること二十数年。昭和の終わりに車検が切れて以来、2度にわたる排ガス規制も何処吹く風で全く動かされる事なくそこに居たリッチモンドグリーンのバンボディ。それが何故か今は二十数年ぶりに道路を転がり、兵庫県でこれまた二十数年ぶりの雨に降られています。


 しかも、SJ10ではありません。正真正銘SJ20Vです。置物になっていただけに、5箇所ほど腐食による穴があったり、各所に傷やエクボもありますが、これなら最小限の補修で「やつれたヤツ」になれるはずです。荷物をガンガン載せられていたのでルーフがかなり凹んでいますが、そんな事は最早どうでも良い。運命に感謝してこの歴史あるボディを百鬼丸に移植する事としました。

 因みにこのエイトは希望どおりの「書なし」車です。ゆえにオネダンはこのボディの修復費まで込みにしても、百鬼丸をフルに治した場合にかかるであろう費用のの1/20以下でした。


 
 内装も当時のまま、道具として直しなおし使い続けるには肩肘張らずに済むコンディション。変なステレオやアクセサリーも無く、あったのはCB無線と純正ラジオのみ。コーションラベルも無事です。屋根下にあっただけにウエザーストリップは弾力を保ち、樹脂部品も全く焼けていません。白っぽく色が抜けるメーターの針が真っ赤です。車内には現代の物は全くなく、昭和の空気がムンムンしていました。


 さらに取扱説明書にスズキ自販近畿の車検証入れ、さらに車載工具まで完備という奇跡的な状態です。

 作業内容としては腐食箇所は完璧に切り接ぎ、細かいサビは徹底してタッチアップ。かなりの量ですが屋根の凹みと、その他のエクボは塗装を痛めない程度に修復するに留めようと思います。

 元々フレームとボディしか無かった百鬼丸は、周囲の協力を得て全国津々浦々から集めたエイトパーツを投入して廃車復活を遂げました。これこそ百鬼丸が百鬼丸たる所以ですが、部品ばかりでなく遂に他車の魂や歴史まで食らうに至りました。このドナーエイトの歴史を残せるのであれば、多少ボディに傷があっても構いません。


 エイトカウントで立ち上がるファイターに、傷跡は付き物です。


 セコンドを勤めます不肖ワタクシめが、出来る限りの血止めとファイト注入に気張らせていただきます。・・・・・・・・・・・・・・インチキ抜きで。


●ボディ交換
 
 いきなりですが、シャシを抜きます。流石に二十年以上不動ですと、下からの湿気でサビサビになっています。フロント3面は防錆の為に取り外していますが、フェンダーとフロントパネルのシーラーは剥がしたくなかったので一体で取り外しました。一人作業ですので、高々とボディを持ち上げる訳にもいかず、ギリギリの高さに上げて、後ろ半分を分解して何とか抜きました。

 
 エッサホイサとフレームを移動。世にも珍しい、SJ20のフレーム2ショット!転がす為に再度組み立てました。元のシャシは完全防錆に、エンジンルーム周辺はチッピングコートを施工しました。通常は下回りに行うものですが、エンジン脱着回数が多いので、上面に施工です。

 
 この時点で、今しか施工できないボディ裏の防錆を実施します。とにかく裏面や内面からの錆は徹底して防ぎたい。そしてそそくさとリアを分解してフレーム挿入。無事、新しい纏と百鬼丸の肝魂が合体しました。

●ルーフ補修
 
 早速、ボディの修復に取り掛かります。屋根には色々なものが積み上げられていたので、ボコボコに変形してしまっています。前後左右、前から後ろまで、大小あわせると数え切れない数の凹み・・・・・ひとつひとつ戻してゆきます。

 
 リブにかかる凹みは厄介です。ここは多少歪みが残っても、純正塗装をしっかり残して補修します。この屋根の傷もこのボディの歴史として残しても良いでしょう。修理している主たる理由は、雨水が溜まるからです。

 
 このあたりは、応力さえ抜ければパッと見てボコボコでない程度に留めます。大きく凹んでいる箇所が殆どですが、細かい歪みを抜くには塗装剥離と絞りは避けられないと思います。


 上から見るとまだ目立ちますが、目の高さから見ればあまり違和感のないように修正できたと思います。屋根さえ普通の状態であれば、本当に最高のボディでしたね。惜しい!



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